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最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)1372号 判決 1965年2月19日

上告人

日本電信電話公社

右代表者総裁

大橋八郎

右指定代理人法務省訟務局長

青木義人

同検事

山田二郎

同法務事務官

去来川重二

同選任代理人日本電信電話公社職員

松下胤次

被上告人企業組合

真田屋呉服店

右代表者代表理事

大西定夫

右訴訟代理人

高橋吉久

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人山田二郎、同去来川重二、同松下胤次の上告理由について。

原判決の確定するところによれば、上告公社(被控訴人)は、昭和二九年一一月頃兵庫県西宮市に上告公社近畿電気通信局勤務の職員のための宿舎(甲東園宿舎)を設置し、訴外工藤正城に対し、右宿舎構内において宿舎の施設を利用し、宿舎居住者のための生活物資廉売機構を開設運営することを委嘱した。右生活物資廉売機構は工藤の個人資格でその名と計算において業務を運営するものであるが、当時上告公社近畿電通局においては、右のような業務は財団法人電気通信共済会に委嘱するのが例であつたため、工藤に委嘱した右業務も将来右財団法人の組織に吸収してその一部局として運営することを予定し、工藤が取引上当初から財団法人電気通信共済会近畿地方生活必需品販売所の名義を使用することを上告公社において黙認する旨の諒解が成立した。工藤は昭和二九年一一月八日から右物資販売業務を開始し、工藤主宰の下に訴外小佐々辰男らが現実の事務処理に当つたが、開始後約六ケ月を経過した時期になつて、前記財団法人の組織内に吸収されるとの当初の見通しは確定的に消滅するに至つた。しかし、工藤らは、引続き従前と全く同一の方式と機構の下に前同様の生活物資供給業務を継続し、上告公社においてあえてこれに対し格別の措置を講ずることをせず放任していた。そして、昭和三〇年一一月一日上告公社近畿電気通信局長と工藤との間に甲東園職員集会所施設運営請負契約と称する契約が締結されたが、右契約の締結によつても前記物資販売業務の運営に関する上告公社と工藤らとの間の基本的関係に何らか新たな変化がもたらされたわけではない、というのである。

原判決は、上告公社は、工藤らが前記業務の運営につき、前記財団法人との関連が解消した後も、少なくとも「近畿地方生活必需品販売部」もしくはこれと類似の名称を引き続き使用していることを知りながらこれを放任していたものと推認することができるが、右「近畿地方生活必需品販売部」または「近畿地方生活物資販売所」という名称は、上告公社近畿電通局の一部局としての表示力を有するから、上告公社は、自ら外部に対し、右生活物資販売業務が直接同公社もしくはその地方機関たる近畿電通局に帰属する事務であると解せしめるような外形を作り出したものと認めるに足りると判示する。

しかしながら、前記原判決確定の事実関係、ことに上告公社は、戦中戦後の物資窮乏時代(当時は電信電話事業が逓信省ついでは電気通信省により所管され、上告公社は未だ発足していなかつた)は別として職員の福利厚生施設としての右のような事業を公社の職員を使用し公社の計算と名において行なうことがなく、組織外の第三者と契約を締結して第三者をしてその名と計算において行なわしめていたのであり、上告公社近畿電通局においては、右にいう部外の第三者として財団法人電気通信共済会を相手方として契約を締結するのを例とし、従つてまた、工藤との契約締結に当り、工藤が右財団法人の名称を使用することを黙認する旨の諒解をしたものにすぎないのであり、上告公社の一部局であることを示す「日本電信電話公社」という名称の使用を特に許したとの事実を確定していない点に徴すれば、特段の事情がない限り、この場合における前記「近畿地方生活必需品販売部」等の名称は、上告公社またはその近畿電気通信局を表示するものとは認め難く、むしろ前記財団法人の一部局を表示するものというべきである。原判決が判示するように、小佐々が昭和三〇年七、八月頃より被上告組合(控訴人)ら商品の卸売人との交渉に当り、信用上の便宜を得るため、ほしいままに「日本電信電話公社近畿電気通信局・近畿地方生活必需品販売部」という名称を用いたとしても、上告会社としては何らこれに関知しないところである。当時、上告公社近畿電通局厚生課に対し、部外の商人から両三度右生活物資販売部と上告公社との関係如何につき商取引に関する信用調査と推察されるような問い合せがあつたとしても、その一事をもつて直ちに上告公社がその一部局として近畿地方生活必需品販売部の名称の使用を黙認したものと断定することはできない。原判決は、工藤らがその営業所に上告公社の名称を冠した看板を掲げ、上告公社においてこれを容認していたなど被上告人が原審において主張した上告公社の一部局としての名称使用黙認を認めるに足る特段の事由につき判示することなく、前記認定事実から直ちに上告公社が工藤らに対し上告公社の名称の使用を許したものとして商法二三条を適用し、また、上告公社が工藤らに対し工藤らの業務遂行を組成する一切の行為につき上告公社の代理権を授与したものであることを一般世人に表示したものであると判示したのは理由不備の違法があり、論旨はこの点において理由があるといわなければならない。本件は、この点において破棄を免れず、前記特段の事情の有無についてなお審理判断を要するから、原審大阪高等裁判所に差し戻すべきである。

よつて、その余の論旨についての判断を省略し、民訴四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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